映画『世界で一番ゴッホを描いた男』

イントロダクション

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芸術に人生を捧げた孤高の画家ゴッホ。そしてゴッホに魅せられ、ゴッホに人生を捧げる男―

フィンセント・ファン・ゴッホ。後期印象派を代表する画家でありながら生前は不遇な人生を送ったといっても過言ではありません。自分の命を削りながら一筆、一筆をキャンパスに自身をぶつけ、芸術に人生を捧げて芸術の高みを目指したゴッホ。そんなゴッホに魅せられた男が中国にいました。20年にわたりゴッホの複製画を描き続け、本物の絵画を見たいと夢み、ゴッホに人生を捧げる男の姿を追った感動のドキュメンタリーです。
2016年アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭ワールド・プレミア後、多くの映画祭で上映され、2017年SKIPシティ国際Dシネマ映画祭では監督賞を受賞(「中国のゴッホ」)。またNHK「BS世界のドキュメンタリー」では『中国のゴッホ 本物への旅』として短縮版が放映され反響を呼びました。

知られざる複製画の世界

深圳市大芬(ダーフェン)。世界最大の「油画村」として知られ、最近では観光地としても有名なこの街には約1万人の画工がいると言われています。街全体が複製画制作という極めてユニークで特異な世界は新鮮で驚きを与えるでしょう。ゴッホの絵画を描く画工たちを追った本作はその制作過程にも迫り、衣食住が一体となった工房で画工たちが壁に向かいながら次々と画を描きあげていくその生活を垣間見られるのは実に興味深いものです。

いつになったらあなたに近づけるのだろう―

趙小勇(チャオ・シャオヨン)はこれまで誰よりもゴッホの絵を描いてきたのに、いまだ本物の絵画をみたことさえありませんでした。複製画制作はビジネス、自分はあくまで職人だと自分に言いきかせる一方、複製画にこだわりとプライドを持ち、単に職人と割り切れない芸術家としての葛藤も垣間見せます。果たして自分は鑑賞にたえる作品を生み出しているのだろうか、いち画家としてこれから何を目指すべきなのかと。その答えはアムステルダムにありました。本物の絵画を訪ねる旅は自分探しの旅でもあったのです。
ゴッホのようにより芸術の高みに到達したいと願い、自分は何をすべきかと苦悩する趙小勇の姿は時には滑稽でありながらその真摯でひたむきな姿に心を打ちます。

複製画からみえてくる世界経済と中国社会

複製画ビジネスの切り口から世界経済、現代中国社会が透けて見えてきます。例えば高級な画廊で自分の絵画が販売されていると思いきや、実は街中の土産物屋で売られていて販売価格は卸値の実に8倍以上だったという、趙小勇が愕然とするシーン。実際にアムステルダムに赴くことで初めて複製画ビジネスのからくりを知ってしまいます。最近は中国の人件費もあがっている、画工のなり手がどんどん減ってきているとクライアントにその場で値上げ交渉をしてしまう一幕も・・。
また、趙小勇の高校生の娘が久々に家に帰ってくるシーンはいわゆる都市戸籍問題が描かれています。生まれも育ちも大芬にも関わらず親が出稼ぎのため都市戸籍がなくて都会の学校へ通う権利がないため、娘だけが田舎に返されたものの、方言が全く分からず先生が何を言っているか分からないという農村、都市間の深刻な戸籍問題が浮き彫りになっているのです。

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